「この映画どうだった?」「まあまあだったよ」
「調子はどう?」「まあまあです」
日本語の「まあまあ」は、一言で色々な気持ちを表現できる、とても便利な言葉ですよね。相手を傷つけず、自分の気持ちを曖昧にぼかすことができる、日本的なコミュニケーションで重宝される表現です。しかし、この便利な言葉が、英語学習者にとっては大きな落とし穴になることがあります。
実は、英語には日本語の「まあまあ」にピッタリ当てはまる一言が存在しません。そして、多くの人が学校で習ったかもしれない “so-so” という表現は、ネイティブスピーカーはあまり使わないばかりか、使うと誤解を招くことさえあるのです。これは、言葉を額面通りに受け取る文化と、文脈や空気を重んじる文化の違いから生じる、典型的なコミュニケーションの壁と言えるでしょう。
この記事では、そんな「まあまあ」の英語表現を徹底的に解説します。単に「正解」のフレーズを覚えるだけでなく、その言葉が持つ微妙なニュアンスや、相手に与える印象まで深く理解することを目指します。これができれば、あなたの英語はより正確になるだけでなく、人間関係もスムーズになるはずです。
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英語の表現力をワンランクアップさせたい方は、ぜひ最後までお付き合いください。
「どうだった?」感想を伝えるときの「まあまあ」
映画やレストラン、仕事の出来栄えなど、何かに対する感想を言うときの「まあまあ」。英語では、満足度合いによって様々な表現を使い分けます。ポジティブ寄りか、ネガティブ寄りか、ニュアンスの違いをしっかり掴みましょう。
ニュアンス別・感想フレーズ集
ポジティブ寄りの「まあまあ」(結構よかった)
- It was pretty good.「結構よかったよ」純粋に「よかった」という気持ちが伝わる、明確でポジティブな表現です。変に誤解される心配がなく、非常に使いやすいので、迷ったらこれを使うと良いでしょう。A: “How was the new Italian restaurant?” (新しいイタリアンレストラン、どうだった?)B: “It was pretty good. You should try it.” (結構よかったよ。行ってみるといいよ)
- Not bad. / Not too bad.「悪くなかったよ(=かなり良かった)」これは英語特有の少しひねくれた表現で、「悪い」という否定語を使いながら、実際には「かなり良い」「期待以上だった」という強い肯定の意味になります。日本語の「まんざらでもない」「やるじゃないか」に近いかもしれません。少し控えめに、でも確かに満足していることを伝えたい時にぴったりです。A: “Did you enjoy the concert?” (コンサートは楽しめた?)B: “Yeah, not bad at all. The guitarist was amazing.” (うん、すごく良かったよ。ギタリストが最高だった)
- It was decent.「ちゃんとしてたよ」「水準は満たしてた」「最高ではないけれど、品質はしっかりしていて満足できるレベル」というニュアンスです。”pretty good” よりも少しだけ冷静で、客観的な評価の響きがあります。例えば、値段相応のサービスや商品に対して使うのに適しています。A: “What did you think of his presentation?” (彼のプレゼン、どう思った?)B: “It was decent. He covered all the key points clearly.” (ちゃんとしてたね。要点はすべて明確に網羅されてたよ)
- It was better than I expected.「期待してたより良かったよ」これは、もともとの期待値がそれほど高くなかったことを示唆しつつ、結果的に満足したことを伝える表現です。良い意味での裏切りがあった時に使えます。A: “I heard that movie got terrible reviews.” (あの映画、評判が悪いって聞いたけど)B: “Actually, it was better than I expected. I quite enjoyed it.” (いや、それが期待してたより良かったよ。結構楽しめた)
中立的な「まあまあ」(可もなく不可もなく)
- It was okay. / It was alright.「まあまあだったよ」「悪くはなかった」これらが、日本語の「まあまあ」に最も近い中立的な表現です。しかし、一番注意が必要なフレーズでもあります。なぜなら、言い方(イントネーション)一つで意味が180度変わってしまうからです。これは、英語が言葉そのものの意味だけでなく、話し方で感情を伝える言語であることの好例です。
- 明るく、語尾を上げて言うと… → 「良かったよ!」というポジティブな意味に。相手も「気に入ったんだな」と安心して会話を続けられます。
- 平坦に、感情を込めずに言うと… → 「特に良くも悪くもない」「期待ほどではなかった」というネガティブ寄りの意味に。相手は「何か不満だったのかな?」と察するでしょう。
ネガティブ寄りの「まあまあ」(期待外れ)
- Nothing special.「特筆すべきことはないね」「期待していたけど、平凡だった」「普通だった」という、少しがっかりした気持ちを表すのによく使われる表現です。特に、前評判が高かったものに対して使うと、そのがっかり感がより伝わります。A: “How was the new Marvel movie?” (マーベルの新作映画、どうだった?)B: “Honestly, it was nothing special. Same old story.” (正直、普通だったかな。いつもの話だよ)
- It was a bit disappointing.「ちょっとがっかりしたな」ストレートに期待外れだったことを伝える表現です。”Nothing special”よりも、主観的な「がっかり感」が強く出ます。A: “You finally tried that famous ramen shop, right? How was it?” (ついにあの有名なラーメン屋に行ったんだって?どうだった?)B: “To be honest, it was a bit disappointing. I waited for an hour for that.” (正直なところ、ちょっとがっかりしたよ。あれに1時間も並んだのに)
- It was so-so.「イマイチだった」後で詳しく解説しますが、”so-so” は中立ではなく、明らかにネガティブな響きを持つ言葉です。「平凡以下」「がっかりした」というニュアンスで伝わります。ネイティブはあまり使いませんが、もし使うならこの文脈です。相手に「おすすめはしない」というメッセージがはっきりと伝わります。
「元気?」に答えるときの「まあまあ」
“How are you?” と聞かれたとき、日本語の感覚で「まあまあです」と答えたくなりますよね。ここでも “so-so” は避けたい表現です。
アメリカ英語などでは、”How are you?” は「やあ!」という挨拶のようなもので、深い意味はなく、ポジティブな返事を期待されていることがほとんどです。これは「交話的表現(phatic expression)」と呼ばれ、情報の交換よりも、会話を円滑に始めるための社会的な潤滑油としての役割が強いのです。ここで正直にネガティブな返事をすると、相手を戸惑わせてしまうことがあります。
状況別・返答フレーズ集
- Not bad.「悪くないよ」最も無難で一般的な返事の一つです。「特に問題なくやってるよ」というニュアンスで、会話をスムーズに進めることができます。”Not bad, how about you?” (悪くないよ、君は?) のように聞き返すのがマナーです。
- I’m alright. / I’m okay.「元気だよ」これも感想の時と同じで、イントネーションが鍵です。明るく言えば「元気だよ!」。でも、少し間を置いたり、語尾を下げて言ったりすると、「(何か問題を抱えているけど)なんとか大丈夫…」と聞こえ、相手に “Oh? Is everything okay?” (え?何かあったの?) のように心配をかけてしまう可能性があります。
- Can’t complain.「文句はないよ(=結構元気にやってるよ)」少し口語的で、ポジティブな響きのある表現です。肩を少しすくめながら笑顔で言うと、「絶好調ではないけど、幸せにやってるよ」という満足感が伝わります。親しい友人同士などでよく使われます。
- Same old, same old. / Same as usual.「相変わらずだよ」「特に良いことも悪いこともなく、いつも通りだよ」というニュアンスです。近況報告をそこで完結させたい時に便利ですが、言い方によっては少し退屈しているような印象を与えることもあります。
- I’m hanging in there.「なんとかやってるよ」これは明確に「あまり調子が良くない」ことを伝える表現です。ストレスや困難な状況があるけれど、持ちこたえている、というニュアンスになります。この返事をすると、相手は「どうしたの?」と話を聞く態勢になる可能性が高いです。A: “How have you been?” (最近どう?)B: “I’m hanging in there. It’s been a tough month at work.” (なんとかやってるよ。今月は仕事が大変でね)
相手をなだめる時の「まあまあ」
興奮している人や落ち込んでいる人にかける「まあまあ、落ち着いて」という言葉。これも状況によって英語表現を使い分ける必要があります。相手の感情を無視するのではなく、寄り添う姿勢を見せることが大切です。
- 怒りや興奮を鎮めるとき
- Take it easy. (落ち着いて、気楽にいこう)友好的で柔らかい響きがあり、最も使いやすい表現です。相手の感情を否定せず、「まあまあ」と肩を叩くような感覚で使えます。
- Calm down. (落ち着いて)直接的な表現ですが、言い方によっては「上から目線」に聞こえ、相手を逆なでしてしまう危険性もあるので注意が必要です。特に、本当に怒っている人に向かって命令口調で言うのは火に油を注ぐ行為です。
- Whoa there. (おっとっと、まあまあ)相手がエキサイトし始めた瞬間に、少しユーモアを交えて「ちょっと待って」と制する時に使えます。
- 悲しみや痛みを慰めるとき
- There, there. (よしよし、大丈夫だよ)泣いている人やひどく落ち込んでいる人を慰める定番の表現です。肩を抱いたり、背中をさすったりしながら、優しいトーンで使います。これに “I’m here for you.” (私がついてるからね) といった言葉を添えると、より心強い慰めになります。
- 慎重な行動を促すとき
- Easy does it. (慎重に、ゆっくりね)重いものや壊れやすいものを運んでいる人に対して「まあまあ、ゆっくり」と声をかける時に使います。”Take it easy” とは全く意味が違うので注意しましょう。
ためらいながら同意する「まあ、いいんじゃない」
気乗りしないけれど許可したり、不本意ながら同意したりする「まあ、いいか」。この微妙な気持ちも、英語では様々な言い方で表現できます。単に “Yes” と言うのではなく、自分の感情のニュアンスを乗せることができます。
- I guess so.「まあ、そうかな」確信はないけれど、たぶんそうだろう、という気持ちを表す最も一般的な表現です。自分の意見にあまり興味がない、あるいは情報がなくて判断できない、というニュアンスも含まれます。
- I suppose so.「まあ、そういうことにしておこうか」”I guess so” よりも少しフォーマルで、不本意ながら、あるいは仕方なく同意するニュアンスが強まります。理想的ではない選択を受け入れる際の、諦めのような響きがあります。例文:A: “Can I borrow your car this weekend?” (今週末、車を借りてもいい?)B: “I suppose so. Just be careful.” (まあ、いいよ。気をつけてね)
- Fair enough.「まあ、一理あるね」「それなら仕方ない」相手の言い分がもっともだと認めるときに使います。自分が完全に同意していなくても、相手の論理を尊重する姿勢を示すことができ、議論を穏便に終わらせるのに便利なフレーズです。例文:A: “I can’t come to the party because I have to work.” (仕事があるからパーティーには行けないんだ)B: “Oh, fair enough. We’ll miss you!” (そっか、それなら仕方ないね。会えなくて残念だよ)
- If you insist.「どうしてもと言うなら」これは、かなり気乗りしない、あるいは反対だけど、相手が強く主張するので折れる、という場面で使います。少し皮肉っぽく聞こえることもあるので、使い方には注意が必要です。
褒められた時の「いえいえ、まあまあです」
「英語がお上手ですね!」と褒められたとき、日本人的な謙遜で「いえいえ、まだまだです」と返していませんか?実はこれ、英語圏では失礼にあたることがあります。
褒め言葉は、会話の「贈り物」。それを否定することは、贈り物を突き返すのと同じように受け取られてしまうのです。また、相手の判断力(「あなたの評価は間違っている」)を暗に否定することにもなりかねません。
英語流・スマートな謙遜の3ステップ
- まずは「ありがとう」で受け取る何よりも先に、”Thank you.” と言いましょう。これが絶対的なルールです。笑顔で、相手の目を見て言うのがポイントです。
- “Thank you.” (ありがとう)
- “That’s very kind of you to say.” (そう言っていただけて、とても嬉しいです)
- “I appreciate that.” (感謝します)
- (任意で)気持ちを付け加える感謝の言葉に、自分のポジティブな気持ちを添えると、より自然で温かい印象になります。
- “Thank you, I’m glad you enjoyed it.” (ありがとう、楽しんでもらえて嬉しいです)
- “Thank you, I’m really happy with how it turned out.” (ありがとう、この結果には自分でも満足しています)
- “Thanks, I worked really hard on it.” (ありがとう、すごく頑張ったんです)
- (任意で)功績を周りの人にも分散する自分一人の手柄ではない、と伝えたい場合に使います。これが英語流の「謙遜」です。まず感謝で受け取ってから功績をシェアするのが、日本式との大きな違いです。
- “Thank you. The whole team worked really hard on this.” (ありがとう。チーム全員が本当に頑張ってくれたんです)
- “Thank you. I couldn’t have done it without my colleagues.” (ありがとう。同僚たちなしではできませんでした)
悪い例 vs. 良い例
A: “Your presentation was fantastic!” (素晴らしいプレゼンでした!)
- 悪い例: “No, no, it was terrible.” (いえいえ、ひどいものでした)→ 相手の評価を否定する失礼な態度、あるいは自信がない人だと思われてしまう。
- 良い例: “Thank you so much! I’m glad you think so. My team gave me a lot of great input.” (ありがとうございます!そう思っていただけて嬉しいです。チームが良いアイデアをたくさん出してくれたんです)→ 感謝を伝えつつ、自信と謙虚さの両方を示すことができる。
特別解説:「So-so」はなぜ使ってはいけないのか?
最後に、なぜこの記事で何度も “so-so” を避けるように言っているのか、その理由を詳しく解説します。
- ネイティブはほとんど使わない日常会話で “so-so” を耳にすることは滅多にありません。特に若い世代では、古臭い言葉だと感じられています。英語の教科書には載っていても、実際の会話では化石のような言葉なのです。
- 中立ではなく「ネガティブ」な響きこれが最も重要なポイントです。多くの日本人が「良くも悪くもない」という中立的な意味で “so-so” を使いますが、ネイティブの感覚では「期待外れ」「平凡以下」「イマイチ」という明確なネガティブなニュアンスになります。レストランの感想で “It was so-so.” と言えば、二度と行かないレベルだということです。デートの感想を聞かれて “It was so-so.” と答えれば、次のデートはない、という強いメッセージになります。
- “How are you?”への返事としては最悪挨拶として聞かれている “How are you?” に “So-so.” と答えると、会話の流れを止めてしまいます。「え、何か深刻な悩みがあるの?」と相手を困惑させ、気まずい雰囲気を作ってしまう「会話のキラーフレーズ」です。
- 日本語の「そうそう」との勘違い日本人が “so-so” を多用する一因として、相槌の「そうそう!」との音の類似性が挙げられます。これは「その通り」という肯定的な意味なので、無意識に “so-so” にもポジティブな、あるいは少なくとも中立的なイメージを持ってしまいがちですが、これは完全な間違いです。
まとめ:今日から実践できる3つのルール
長い記事になりましたが、英語で「まあまあ」をマスターするための要点はシンプルです。今日からこの3つを意識してみてください。
- ルール1:「So-so」は今日で卒業あなたの単語帳から “so-so” を消しましょう。感想を言うなら “It was okay” や “Not bad” を。挨拶に答えるなら “Not bad” や “I’m good” を使うだけで、あなたの英語はぐっと自然になります。まずは一週間、「まあまあ」と言いたくなったら、代わりにこれらのフレーズを口に出すチャレンジをしてみてください。
- ルール2:意味を決めるのは「声のトーン」特に “okay” や “alright” は、声のトーンが命です。ポジティブな気持ちなら明るく語尾を上げて、ネガティブな気持ちなら平坦に。海外ドラマや映画のワンシーンを真似て、俳優のイントネーションをコピーする練習は、非常に効果的です。あなたの本当の気持ちが伝わるようになります。
- ルール3:褒め言葉には、まず「Thank you」褒められたら、反射的に “Thank you” と言えるようになりましょう。これは自信のなさの表れではなく、相手への敬意を示す、成熟した大人のコミュニケーションです。贈り物を受け取るように、感謝の言葉を笑顔で返す。それが、自信と礼儀正しさを両立させる、大人の英語コミュニケーションの第一歩です。
「まあまあ」という便利な言葉の裏にある、豊かな感情のグラデーション。それを英語で表現できるようになれば、あなたの会話はもっと楽しく、もっと深くなるはずです。ぜひ、今日から一つでも新しい表現を使ってみてください。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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