日本語でのコミットの意味と使い方
「結果にコミット」というライザップ社のCMで有名になった「コミット」ですが、英語での意味や使い方とはそもそも違うってことはご存知ですか?
そもそも、日本語で「コミット」の意味は、広辞苑によると、こうあります。
コミット 【commit】
広辞苑 第七版
かかわりを持つこと。関係すること。「その件には―しない」
広辞苑を見ると、我々の知っているのと意味が違いますよね。
大辞林には意味がこう書いてあります。
コミット【commit】
大辞林 第三版(三省堂)
( 名 ) スル
① 関係すること。参加すること。かかわり合うこと。 「ある団体に-する」
② 任せること。委任すること。委託すること。
こうやって、国語辞典を見ても我々が知ってる「コミットする」の意味は無いですね。
でも、新語時事用語辞典の中にこういう記述があります。
「結果にコミットする」とはどういう意味なのか
新語時事用語辞典
コミットの類語は「尽力する」や「真剣に向き合う」などがある。パーソナルトレーニングジム経営をしているライザップ社は「結果にコミットする」というキャッチコピーで知られている。結果にコミットするとは、結果を出すために責任を引き受けて深く関わるという意味合いを持つ。
実は新語だったんですね~。どうりで今まで聞いたことがない筈ですよね。それもあのコマーシャルが発祥だったんですね~。
英語のコミット commit の意味と使い方
でもこの「コミットする」という「新しい日本語」、英語での意味や使い方が違います。
コミット(commit)の中心的な意味は、「罪を犯す」
そうなんです。commit と聞いて最初に思い浮かぶのは、「罪を犯す」なのです。大学入試で勉強した方も多いのではないでしょうか。
例えば、ロングマン英和辞典の最初の意味にはこうあります。
1《他》 <犯罪・過失など> を犯す
ロングマン英和辞典 commit
• She’s sorry she committed the offense. 法を犯したことを彼女は後悔している.
commit a crime 犯罪を犯す
• Women commit fewer crimes than men. 女性は男性よりも犯罪を犯す率が低い.
commit suicide 自殺する
commit murder / arson / rape 殺人[放火,強姦ごうかん ]を犯す
commit adultery (with somebody) (<人>と)不倫をする
commit a sin 罪[過ち]を犯す
なんか、物騒なのばかりですよね。大学入試で出るのはこの意味なんですよね。
しかし、日本語の新語的な「コミットする」の意味ももちろんあります。
コミットを日本語的な意味で使うなら使い方が違う
英語のコミット(commit)は、「誰々を~に確約させる」という意味なのです。
上記の ロングマン英和辞典を見ていくとあるのですが、日本人が想像するのと語法(単語の使い方)が違うのです。例えば以下です。
• The government has committed itself to a wide range of reforms.
ロングマン英和辞典 commit
政府は広範囲にわたる改革を確約した.
つまり、
① commit 誰々 to (doing) something
コミット(commit)は目的語に、コミットさせる相手や自分自身(~self)を置いて、確約する内容は to を使わなければならないのです。
だから、「私は~にコミットする」と言いたければ、I will commit myself to ~. となるのです。
また、受動態で使うのもありです。
② be committed to (doing) something
だから、I will be committed to ~. という形になります。
使いにくいですね~。
コミットではなく、むしろコミットメント
そして更に話がややこしくなるのですが、日本で最近流行りの「コミットする」ですが、コミットではなく、コミットメント(commitment)から来ているのです。
広辞苑にこうあります。
コミットメント 【commitment】
広辞苑 第七版
①かかわりあい。関与。
②誓約。公約。言質。「平和への―」
2の意味ですね。ロングマン英和辞典でも1番目にこの意味が来ています。
1《C, U》 約束, 公約
ロングマン英和辞典 commitment
• He sees marriage as a lifelong commitment.
彼は結婚を生涯にわたる公約と考えている.
commitment to
• a commitment to equal pay
同一賃金実現への公約
a commitment to do something <…>するという約束
make a commitment 確約する
そろそろ気が付かれましたかね?
実は「コミットする」は、本当は「コミットメントする」という意味なんです。
和製英語「コミットする」の歴史
おそらく、日本で「コミットメント」という言葉をよく聞くようになったのは、ゴーンさんが原因でしょう。
1999年、倒産しかけた日産にやってきたゴーンさんは、「2001年3月期に黒字に転換できなければ日産を去る」と強烈なリストラを行い、2001年3月期の純損益は3311億円の黒字にしてV字回復を果たしました。そしてゴーンさんは記者会見で、「最初のコミットメントは達成された」と語ったそうです。
こうしてビジネスで「コミットメント」という言葉が次第に日本で広まっていくのですが、コミットメントという語は日本語では長いのです。だから、短い「コミット」が代わりに使われ初め、ライザップ社のキャッチコピーでブレイクした、という流れでしょう。
グーグル・トレンドで見ると、2015年に「コミット」の使用例が激増しているのが分かります。一方、コミットメントは逆に減っていっていますね。
まとめ:コミット(commit)
日本語で「コミットする」というのは「確約する」という意味で既に市民権を得たと思います。だから使っても問題ないでしょう。
でも日本語と同じ意味で英語のコミット(commit)を使う時は気をつけて下さい。
おそらく、make a commitment to ~ を使ったほうが無難ですよ。
英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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