職場で毎日、当たり前のように使っている「お先に失礼します」。この一言、もし英語で伝えるとしたら、どんな言葉が思い浮かびますか?
実は、このフレーズは、英語学習者がつまずきやすい代表的な表現の一つです。日本語の感覚でそのまま英語に直訳してしまうと、相手に意図が伝わらないばかりか、奇妙な印象を与えてしまうことさえあります。
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この記事では、動画の内容をさらに深掘りしていきます。「なぜ直訳ではダメなのか」という文化的な背景から、状況別に使えるネイティブの自然な表現、そして同僚へのスマートな返し方まで、豊富な例文を交えながら徹底的に解説します。
英語学習をもう一度頑張りたいと思っている初心者の方でも、この記事を読み終える頃には、文化の違いを理解し、自信を持って「お先に失礼します」が言えるようになっているはずです。
なぜ「お先に失礼します」は直訳できないのか?
結論から言うと、このフレーズが直訳できない理由は、言葉の裏にある「文化的な価値観」が日本と英語圏で大きく異なるからです。
日本語の「お先に失礼します」には、単に「先に帰ります」という事実を伝える以上の意味が込められています。まだ残って仕事をしている同僚がいる中で先に帰ることへの「申し訳なさ」や、集団の和を乱すことへの「配慮」といった、日本特有の奥ゆかしいニュアンスが含まれているのです。
一方で、英語圏、特に欧米の職場文化は、より個人主義的です。個人の労働時間は雇用契約によって明確に定められており、定時になったら仕事を終えて帰るのは、個人の守られるべき「権利」だと考えられています。むしろ、時間内に仕事が終わらないことは、自己管理能力や業務効率が低いことの表れと見なされることさえあります。そのため、定時で帰ることに罪悪感を持ったり、謝罪したりするという発想自体がありません。
- 日本文化 vs. 欧米文化の考え方の違い
- 日本: 「和」を重んじる文化。集団の調和を大切にし、残っている人への配慮や、時には予防的な謝罪の気持ちを表現する。
- 欧米: 「個人」を尊重する文化。個人の自律性や契約を重視し、仕事とプライベートの境界線が明確。定時退社は当然の権利と考える。
この文化的な前提の違いがあるため、もし「お先に失礼します」を “Excuse me for leaving first.” のように直訳してしまうと、ネイティブスピーカーは「なぜ帰ることで謝るの?何か悪いことでもしたの?」と困惑してしまいます。”Excuse me for…” という表現は、相手の足を踏んでしまった時や、会議に遅刻した時など、相手に具体的な迷惑をかけたことに対して謝罪する際に使われるのが一般的です。定時で帰ることは迷惑行為ではないため、謝罪の対象にはならないのです。
定時で帰る時に使える!基本の英語フレーズ
では、英語ではどのように挨拶するのが自然なのでしょうか。ここでの大切な心構えは、「謝罪」ではなく「ポジティブな挨拶」を交わすことです。難しく考えすぎず、シンプルで前向きな表現を心がけましょう。
丁寧でいつでも使える定番フレーズ
まずは、相手や状況を選ばずに使える、丁寧で好印象な基本の挨拶です。これさえ覚えておけば、どんな職場でも困ることはありません。
- Have a good evening.(良い夜を。)
- Have a good night.(おやすみなさい。/ 良い夜を。)
夕方から夜にかけてであれば “Have a good evening.” が最も一般的です。夜も更けて、相手がもうすぐ寝るような時間帯であれば “Have a good night.” が自然です。そして、週末前にはこの一言が欠かせません。
- Have a good weekend.(良い週末を。)
- Enjoy your weekend.(週末、楽しんでね。)
これらの挨拶の前に、「もう行きますね」「これで失礼します」というような、自分の行動を伝える一言を付け加えると、会話がよりスムーズになります。
- I’m heading out now. Have a good evening.(そろそろ失礼します。良い夜をお過ごしください。)
- Alright, I’m leaving for the day. Have a good weekend!(では、今日はこれで失礼します。良い週末を!)
親しい同僚へのカジュアルなフレーズ
毎日顔を合わせる気心の知れた同僚には、もっと肩の力を抜いたカジュアルな表現が使えます。
- See you tomorrow.(また明日。)
- See you in the morning.(また明日の朝にね。)
- See you. / See ya.(またね。)
“See ya.” はよりくだけた言い方で、親しい間柄で使われます。こちらも、オフィスを出る前の合図となる言葉と組み合わせることで、より自然な流れになります。
- I’m off. See you tomorrow.(じゃあ、行くね。また明日。)
- Okay, I’m taking off. See ya on Monday.(よし、帰るね。また月曜に。)
【応用編】同僚がまだ仕事をしている時の気の利いた一言
自分が帰る時に、周りの同僚たちがまだ集中して仕事をしていると、なんとなく声をかけづらいと感じるかもしれません。しかし、そんな時でも「申し訳ない」という気持ちから謝る必要は一切ありません。大切なのは「謝罪」ではなく、残って頑張っている仲間への「気遣い」を示すことです。
フロア全体への挨拶
オフィス全体に聞こえるくらいの明るい声で挨拶すると、残っている人たち全員を認識しているというポジティブな気持ちが伝わり、とても良い雰囲気を作ることができます。
- Good night, everyone.(皆さん、おやすみなさい。)
- Bye everyone, have a good night!(みんな、またね!良い夜を!)
個人への温かい声かけ
特に親しい同僚や、大変そうな仕事をしている人がいる場合は、個別に温かい一言をかけると、あなたの優しさが伝わります。
- Don’t work too hard.(あまり無理しないでね。)
- Don’t work too late.(あまり遅くまで働きすぎないでね。)
これらの言葉は、「先に帰ってごめんね」という罪悪感からではなく、「あなたの体を心配しているよ」という純粋な思いやりから来るものです。仲間意識が伝わる、とてもポジティブなコミュニケーションです。
- I’m taking off. Don’t work too late!(帰るね。あまり無理しないでね!)
- Looks like you’re busy. Don’t work too hard.(忙しそうだね。あまり根を詰めすぎないでね。)
「お先に!」と言われた時のスマートな返し方
今度は、あなたがオフィスに残る側です。同僚から “Have a good evening.” と声をかけられた時、なんと返事をしますか?日本語の「お疲れ様です」は、相手の労をねぎらう非常に便利な言葉ですが、残念ながらこれにぴったり当てはまる英語表現は存在しません。
英語のコミュニケーションでは、相手の労をねぎらうよりも、相手から向けられたポジティブな言葉に対して「あなたもね」とシンプルに返すのが基本です。これを「返報性」と言い、会話をスムーズに終えるための大切なマナーです。
最も簡単で一般的な返事
最も簡単で、最もよく使われるのが “You too.” です。これで「あなたも良い夜をね」という意味になります。
- A: Have a good evening. (良い夜を。)
- B: You too. (あなたもね。)
感謝の気持ちを加えたい場合は、”Thanks” を頭につけると、より丁寧な印象になります。
- A: Have a good weekend. (良い週末を。)
- B: Thanks, you too. (ありがとう、あなたもね。)
気遣いが伝わる返事
シンプルながら、相手への思いやりが伝わる温かい返事もあります。
- Take care.(気をつけてね。)
- Drive safe. / Get home safe.(気をつけて帰ってね。)
“Take care.” は非常に汎用性が高く、退社時に限らず、別れ際の挨拶としていつでも使えます。相手が車通勤なら “Drive safe.”、そうでなければ “Get home safe.” のように使い分けることもできます。
まとめ
「お先に失礼します」という一言から、日本と英語圏の文化の違いが見えてきたのではないでしょうか。最後に、今日の重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 日本語の「お先に失礼します」にある「申し訳なさ」のニュアンスは、英語の挨拶には不要。
- 退社時の挨拶は、難しく考えず「シンプルでポジティブ」が基本。
- 定番は “Have a good evening.” や “See you tomorrow.”。状況に応じて使い分ける。
- 同僚が残っている場合は、罪悪感から謝るのではなく、相手を思いやる「気遣い」の言葉をかける。
- 挨拶への返事は、相手の言葉を繰り返す “You too.” が最も自然で一般的。
文化的な背景を理解すれば、単にフレーズを暗記するよりもずっと深く、そして柔軟に英語を使いこなせるようになります。まずは今日ご紹介したフレーズの中から、あなたが一番言いやすいと感じるものを選んで、明日から早速職場で使ってみてください。きっと、同僚とのコミュニケーションがよりスムーズで楽しいものになるはずです。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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