「子どもを育てる」「野菜を育てる」「才能を育てる」。日本語なら「育てる」の一言でいろいろな場面で使えますが、英語では状況によって単語を使い分ける必要があります。この違いが分かると、表現の幅がぐっと広がります。
この記事では、そんな「育てる」にまつわる英単語の使い分けを、たくさんの例文とともに分かりやすく、そして深く掘り下げて解説します。
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- 「もっと詳しく、しっかり理解したい!」という方は、ぜひこのまま記事を読み進めてください。
場面に合わせてピッタリな言葉を選べるようになると、あなたの英語はもっと自然で、表現豊かになりますよ。
基本の「育てる」:grow
まずは、「育てる」を表す最も基本的で便利な単語 grow
から見ていきましょう。
grow
の一番のポイントは「自然な成長」というイメージです。水や栄養を与えれば、あとは自然の力で大きくなっていく、というような、生物が本来持つ力に任せた成長を表します。そのため、特別な手間や感情を込めず、時間とともに大きくなったり、増えたりする様子を客観的に描写するのに最適な単語です。
もう一つの大きな特徴は、主語によって「育つ」と「育てる」の両方の意味で使えることです。
- 植物が主語の場合:「育つ」(自動詞)
- My plants grow fast in the summer.私の植物は夏に早く育ちます。
- My hair grows so quickly.私の髪は伸びるのがとても速いです。
- The city grew quickly in the last decade.その街は過去10年で急速に発展しました。
- 人が主語の場合:「〜を育てる」(他動詞)
- I grow vegetables in my garden.私は庭で野菜を育てています。
- She grows beautiful roses.彼女は美しいバラを育てています。
- My grandfather grew rice for a living.私の祖父は生計を立てるために米を育てていました。
このように grow
は植物や髪、爪といった物理的なものだけでなく、ビジネスや経済、人の感情といった抽象的なものが大きくなる様子を表すのにも使えます。「彼の会社は成長している (His company is growing.)」や「彼女への想いが募る (My feelings for her are growing.)」のように、非常に用途の広い単語です。
「人が育つ」は grow up
ちなみに、子どもが成長して大人になることを表現する場合は grow up
という句動詞を使うのが一般的です。「私は東京で育ちました」と言いたいときは、後述する raise
を使って “I was raised in Tokyo.” と言うのが最も自然ですが、”I grew up in Tokyo.” と言うこともできます。この grow up
は「成長する」というプロセスそのものに焦点を当てた表現です。
人を「育てる」:raise vs. bring up
では、自分の子どもを「育てる」と言いたい場合はどうでしょう。ここで grow
を使うのは少し不自然に聞こえてしまいます。親が子に対して責任を持って育てる場合には、主に raise
と bring up
を使います。
raise:養育する
raise
は、子どもが一人前になるまで、食事や住居、教育など、生活全般の面倒を見るという「養育する」というニュアンスが強い単語です。生きていくために必要なものを与え、安全な環境を整えるという、親としての責任や義務の側面が感じられます。特にアメリカ英語で最も一般的に使われます。
- She raised three children on her own.彼女は一人で3人の子どもを育て上げました。
- I was born and raised in Tokyo.私は東京で生まれ育ちました。
- It costs a lot of money to raise a child these days.最近は子ども一人を育てるのにはとてもお金がかかります。
bring up:しつけ・教育する
bring up
も raise
とほぼ同じ意味で使われますが、こちらはイギリス英語でより好まれる傾向があります。また、raise
に比べて、道徳的なことや社会のルール、マナーを教えるといった「しつけ」や「教育」のニュアンスが少し強まることがあります。「上の段階へ(up)連れていく(bring)」という言葉の成り立ちからも、人格形成に関わるような指導のイメージが湧きますね。
- He was brought up by his grandparents.彼はおじいさん、おばあさんによって育てられました。
- They were brought up to be polite and respectful.彼らは礼儀正しく、敬意を払うように育てられました。
- She was brought up in a very strict household.彼女はとても厳しい家庭で育てられました。
ここで注意!日本語話者がやりがちな間違い
日本語の感覚で “I grow my child.” と言ってしまうと、ネイティブスピーカーには「子どもを(植物のように)栽培する」というような、とても奇妙な響きに聞こえてしまいます。grow
はあくまで自然の力に任せた成長を指すため、親が責任を持って育てるというニュアンスが含まれません。
親が子を「育てる」という行為を表すときは、生活の面倒を見る raise
か、しつけ面を強調する bring up
を使うのが基本ルールだと覚えておきましょう。
ペットを「育てる」:have, own, look after
次に、犬や猫などのペットについて話す場合を見ていきましょう。この場合、raise
を使うと少し不自然に聞こえることがあるので注意が必要です。
raise
には、raise cattle
(牛を育てる)のように家畜を育てたり、何か特定の目的のために育てたりするというビジネスライクな響きが含まれることがあります。そのため、家族の一員として可愛がっているペットに使うと、愛情のこもった関係性というよりは、どこか目的を持った飼育のような、少し距離感のある言い方に聞こえてしまう可能性があります。
では、どのように言うのが自然なのでしょうか。
- have / own:「飼っている」という状態を表す最も一般的な表現です。
- Do you have any pets?ペットを飼っていますか?
- We own two dogs and a cat.私たちは犬を2匹と猫を1匹飼っています。
- look after / take care of:「世話をする」という行為に焦点を当てた表現です。
look after
は日常的な世話、take care of
は健康管理なども含めた、より責任の重い世話を指すことがあります。- I look after my friend’s cat when she is on vacation.友達が旅行中は、私が彼女の猫の世話をします。
- You have to take care of a puppy as if it were a baby.子犬の面倒は、まるで赤ちゃんのように見なければなりません。
もちろん例外もあり、ブリーダーが繁殖目的で育てている場合や、「この子猫たちを、もらい手が見つかるまで育てたんだ」と、ある特定の期間の養育を強調したい場合には raise
を使うこともあります。
- I raised him from a puppy.私は彼を子犬の時から育てました。
基本的には、大切な家族であるペットの話をするときは、シンプルに have
や、お世話のニュアンスで look after
を使うと覚えておくと良いでしょう。
愛情を込めて「育てる」:nurture
もっと愛情を込めて、何かを大切に「育む」という気持ちを表現したいときには nurture
という単語がぴったりです。
nurture
は、植物や子どもはもちろん、才能、アイデア、友情、希望といった形のないものまで、注意深く保護しながら、愛情と時間をかけてその成長を助けるという、とても優しく温かい響きを持つ言葉です。ただ世話をするだけでなく、その対象が持つ可能性を最大限に引き出そうとする、積極的で思いやりのある姿勢が感じられます。
有名な「氏か育ちか (Nature vs. Nurture)」という言葉の nurture
がこれにあたります。「nature(生まれ持った性質)」だけでなく、「nurture(後天的に育まれる環境や愛情)」が人間形成に重要だ、という文脈で使われますね。
- She nurtured the sick plant back to health.彼女はその弱った植物を丁寧に世話して元気にしました。
- It’s important to nurture a child’s creativity and curiosity.子どもの創造性と好奇心を育むことは大切です。
- They nurtured their friendship over many years with trust and support.彼らは信頼とサポートをもって、長年にわたって友情を育みました。
- He is nurturing an idea for a new business.彼は新しいビジネスのアイデアを温めています。
raise
が生活の面倒を見るという物理的・経済的なサポートのニュアンスなのに対し、nurture
は心の栄養を与えるような、より深い愛情や精神的なサポートが感じられる単語です。
【発展編】才能や環境を「育てる」:develop, foster, cultivate
最後に、もう少しステップアップして、スキルや才能、そして良い環境を「育てる」と言いたいときの、より洗練された表現も見てみましょう。
- develop:スキルや能力、計画などを「発展させる」「開発する」develop は、今あるものをさらに高度なレベルに引き上げていく、というプロセスを表す中立的な単語です。潜在的な可能性を、具体的な形や能力へと変えていくイメージです。
- I want to develop my English skills for my career.私はキャリアのために英語のスキルを伸ばしたいです。
- The company is developing a new marketing strategy.その会社は新しいマーケティング戦略を開発しています。
- foster:成長しやすい「環境や雰囲気を作る」foster は、個人に直接働きかけるというより、成長や発展が起こりやすいようなポジティブな「環境」や「文化」を育む、というニュアンスの単語です。foster parent(里親)が子どもに安全な家庭環境を提供するように、何かを促進するための土台作りのイメージです。
- The teacher’s job is to foster a love of learning in her students.先生の仕事は、生徒たちの学ぶことへの愛情を育むことです。
- We try to foster a sense of community and cooperation in our neighborhood.私たちは近所でコミュニティ意識と協調性を育むように努めています。
- cultivate:時間と努力をかけて「育む」「培う」cultivate は、元々「耕す」という意味の単語で、畑を耕して良い作物を育てるように、長期的な努力と注意を払って何かを育てるというニュアンスがあります。良い習慣、人間関係、専門知識などをじっくりと築き上げる際に使われます。
- He cultivated a reputation as an honest businessman.彼は正直なビジネスマンとしての評判を築き上げた。
- To become a good writer, you need to cultivate a habit of reading.良い書き手になるためには、読書の習慣を養う必要がある。
まとめ
いかがでしたか?「育てる」という一つの日本語にも、英語ではこれだけたくさんの表現があり、それぞれに豊かなニュアンスが込められています。最後に、基本の使い分けを簡単におさらいしましょう。
- 植物や自然な成長 →
grow
- 子ども(養育) →
raise
(米) /bring up
(英) - ペット(飼っている) →
have
/look after
- 愛情を込めて育む →
nurture
- スキルや能力を発展させる →
develop
- 良い環境や雰囲気を育む →
foster
- 時間と努力をかけて培う →
cultivate
まずはこの基本的な違いを意識するところから始めてみてください。一度にすべてを覚えようとせず、映画や本の中でこれらの単語がどのように使われているかに注意を向けながら、少しずつ自分の言葉として使えるように練習していきましょう。そうすれば、あなたの英語表現はもっと生き生きとしたものになるはずです。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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