「お邪魔します」って、英語でどう表現すればいいんだろう?
英語の勉強をやり直していると、必ずと言っていいほど直面するこの壁。いざという時にサッと口から出てこない、日本語ならではの本当に便利な言葉ですよね。
実は、この「お邪魔します」に100%ピッタリ当てはまる、万能な英語のフレーズは存在しません。だからこそ、辞書で調べてそのまま直訳してしまうと、意図が伝わらないどころか、相手を困惑させてしまう可能性もあるのです。
まずは基本を5分でサクッと理解したい!という方は、こちらのYouTube動画をご覧ください。
そして、さらに詳しく、ネイティブの思考法や文化的な背景まで深く理解したい!という方は、ぜひこのままこの記事を読み進めてください。なぜ直訳がダメなのかという理由から、状況に合わせた豊富なフレーズ、さらにはリアルな会話シミュレーションまで、あなたの「知りたい!」に徹底的にお答えします。この記事を読み終える頃には、「お邪魔します」の英語表現に、もう迷わなくなっているはずです。
なぜ “I will disturb you.” はNG?「お邪魔します」の直訳が不自然な理由
多くの英語学習者が一度は通る道、それが「邪魔する」を意味する “disturb” という単語を使って “I will disturb you.” と直訳してしまうことです。文法的には間違いではありません。しかし、ネイティブスピーカーの耳には、非常に奇妙で、場合によっては失礼に聞こえてしまいます。
その理由は、単語の重みと、その背景にある文化的な考え方の違いにあります。
“disturb” が持つ、想像以上に「重い」意味
日本語の「邪魔」は、「少しお時間をいただきます」くらいの軽い挨拶から、深刻な妨害まで、文脈によって意味の重さが変わる柔軟な言葉です。しかし、英語の “disturb” は、私たちが思うよりもずっと深刻でネガティブな意味合いを持つ単語です。
- 平和や集中を「かき乱す、妨げる」: ホテルのドアにかける「起こさないでください」の札が “Do Not Disturb” であることは有名ですね。これは「どうぞ邪魔しないでください」という強い要求を示します。同様に、公共の場で騒ぐことは “disturbing the peace”(治安を乱す)という罪になることもあります。
- 精神的に「動揺させる、不安にさせる」: 衝撃的なニュースを “disturbing news” と言ったり、気味の悪い映画を “a disturbing movie” と表現したりします。人の心をかき乱し、不快にさせるニュアンスが含まれます。
もしあなたが誰かのオフィスを訪ねて、笑顔で “Hello, I will disturb you.” と言ったとしたら、相手の頭の中は「?」でいっぱいになるでしょう。「え、これから私を困らせるってこと?何か悪い知らせでもあるの?」と、相手を不要に警戒させてしまうのです。丁寧な挨拶のつもりが、まるで「これからあなたに迷惑をかけます」という不吉な予告に聞こえてしまう、これが “disturb” の持つ重みなのです。
日本の「宣言文化」 vs. 英語圏の「許可文化」
この問題の根底には、より深い文化的な違いがあります。「お邪魔します」という言葉は、「これからあなたの領域(テリトリー)に入りますが、ご容赦くださいね」と、自らの行動を宣言し、あらかじめへりくだって見せる、日本独特の儀式的な挨拶です。これは、集団の和を重んじる文化から生まれた知恵と言えるでしょう。
一方、英語圏の文化は個人主義が基本です。個人の時間、物理的な空間(デスク周りや自室)、そして「集中している状態」さえも、その人自身の所有物であり、尊重されるべきテリトリーと考えられています。そこに立ち入る前には、相手の許可を得るのが絶対的なマナーです。
この違いをドアに例えると分かりやすいかもしれません。
- 日本の「お邪魔します」: 相手の部屋のドアを自分で開けながら、「今から入りますね、失礼します」と宣言するイメージ。
- 英語のコミュニケーション: 相手の部屋の閉まったドアをまずノックして、「入ってもいいですか?」と尋ね、相手が「どうぞ」と答えてからドアを開けるイメージ。
この「宣言して入る」のか「許可を得てから入る」のかという根本的な思考様式の違いこそが、「お邪魔します」の翻訳を難しくしている最大の原因なのです。
【状況別】ネイティブはこう言う!「お邪魔します」の英語表現
では、実際に英語ネイティブは様々な場面でどのように表現しているのでしょうか。決まった一つの正解はなく、状況、相手との関係性、そして丁寧さの度合いによって、多彩なフレーズを使い分けるのがポイントです。
1. 人の家や部屋を訪ねる時
個人の最もプライベートな空間である家を訪れる時は、特に丁寧さが求められます。
- 定番フレーズ (招待されている場合)
- Hello! Thank you for having me. / Thank you for the invitation.(こんにちは!お招きいただきありがとうございます。/ ご招待ありがとうございます。)
- 解説: 訪問の挨拶として、まず招待への感謝を伝えるのが最も標準的で丁寧な表現です。「あなたの家は素敵ですね (Your home is lovely.)」などと一言褒め言葉を加えると、さらに温かい雰囲気になります。
- カジュアルなフレーズ (親しい友人の家)
- Hello! It’s me! / Hey, it’s us!(やあ!私だよ!/ やあ、私たちだよ!)
- 解説: ノックやインターホンの後に、相手が誰だか分かるように伝える親しみを込めた表現です。
- アポなしで訪問した時
- Hi. I hope I’m not bothering you. / I hope I’m not catching you at a bad time.(こんにちは。お邪魔でなければよいのですが。/ お忙しいところじゃなければいいのですが。)
- I was in the neighborhood, so I thought I’d stop by. Is now a good time?(近くまで来たので、寄ってみました。今、大丈夫ですか?)
- 解説: 突然の訪問を詫び、相手に決定権を完全に委ねる聞き方が重要です。「もし忙しかったら、またにしますね (If you’re busy, I can come back later.)」と付け加えると、さらに配慮が伝わります。
2. オフィスで上司や同僚に話しかける時
相手の「集中」というテリトリーにお邪魔する意識が大切です。
- 定番フレーズ (丁寧)
- Excuse me, do you have a moment? / Do you have a minute?(すみません、少しお時間よろしいですか?)
- 解説: 相手が誰であれ使える、最も万能で丁寧な表現です。 “a second” は「ほんの一瞬」、”a minute/moment” は「少しの時間」というニュアンスですが、ほぼ同じように使えます。必ず相手の返事を待ってから用件を切り出しましょう。
- カジュアルなフレーズ (同僚へ)
- Got a second?(ちょっといい?)
- Is now a good time?(今、大丈夫?)
- 解説: 親しい同僚の間で頻繁に使われる、短い確認の言葉です。相手が忙しそうなら “No worries, catch you later.” (気にしないで、また後でね) とすぐに引き下がるのがスマートです。
- 特に丁寧に (上司へ)
- Excuse me, Ms. Smith. When you have a moment, I’d like to ask you something.(スミスさん、すみません。お時間のある時に、少しお伺いしたいことがあります。)
- 解説: 相手に時間の主導権を完全に渡す、非常に丁寧な表現。相手が「今、大丈夫ですよ (Now is fine.)」と言ってくれたら、用件を話しましょう。
3. 会議室に入る時
すでに始まっている場に入る時は、いかに流れを止めないかが鍵です。
- 時間通りに入室した場合
- (静かに入り、笑顔で会釈しながら) Hello everyone. / Good morning.(皆さん、こんにちは。/ おはようございます。)
- 解説: 挨拶はごく簡潔に済ませ、場の雰囲気を壊さないようにします。一人一人と握手して回るようなことは不要です。
- 遅刻してしまった場合
- (静かに入り、ドアに一番近い席に座りながら、小さく) Sorry I’m late.(遅れてすみません。)
- 解説: 会議の流れをこれ以上妨げないことが最優先です。長々と「電車が遅れて…」などの言い訳はせず、簡潔な謝罪だけを伝えましょう。オンライン会議の場合は、マイクをミュートにしたまま参加し、チャットで「Hi everyone, apologies for joining late.」と伝えるのが最も良いマナーです。
4. 会話に割って入る時
会話も、参加者で共有されている大切な空間です。
- 定番フレーズ (丁寧)
- Excuse me for interrupting, but…(お話中すみませんが、…)
- 解説: 会議やフォーマルな場で、議論に割って入る際の最も標準的な表現です。自分の意見を言う前に、このクッション言葉を必ず入れましょう。
- カジュアルなフレーズ
- Sorry to jump in, but…(話の途中ごめんね、でも…)
- 解説: 友人や同僚とのカジュアルな会話の流れに、素早く加わりたい時に使います。リラックスした雰囲気で使えます。
- 許可を求める表現
- May I add something here? / Can I just say one thing?(ここで一言、付け加えてもよろしいですか?/ 一つだけ言ってもいいですか?)
- 解説: 発言の許可を明確に求める、非常に丁寧な言い方です。相手に敬意を払っていることが明確に伝わります。
実践!会話シミュレーションで使い方をマスターしよう
フレーズを覚えたら、次は実際の会話でどのように使われるかを見ていきましょう。あなたが登場人物になったつもりで、声に出して練習してみてください。
シナリオ1: オフィスで同僚に質問
あなた: (集中している同僚のKenjiさんのデスクに近づき) Excuse me, Kenji-san. Do you have a second?
(すみません、ケンジさん。少しだけいいですか?)
Kenji: Actually, I’m in the middle of something right now. Can you give me about 10 minutes?
(ごめん、今ちょっと立て込んでて。10分くらいもらえる?)
あなた: Of course, no problem at all. I’ll come back later. Thanks!
(もちろんです、全然問題ないですよ。また後で来ます。ありがとう!)
シナリオ2: 友人のホームパーティーで
Maria: (玄関のドアを開けて) Hi! I’m so glad you could make it!
(ハーイ!来てくれてすっごく嬉しいわ!)
あなた: Hi Maria! Thank you so much for having me. This house is beautiful!
(こんにちは、マリア!お招きありがとう。素敵な家ね!)
Maria: Thank you! Come on in. Can I get you something to drink?
(ありがとう!さあ、入って。何か飲み物はいる?)
あなた: I’d love a glass of water, please. Thank you!
(お水を一杯いただけますか。ありがとう!)
シナリオ3: チームミーティングで意見を言う
同僚A: I think we should focus on social media marketing.
(ソーシャルメディアマーケティングに集中すべきだと思います。)
同僚B: But the budget is our main concern right now.
(しかし、今は予算が主な懸念事項です。)
あなた: Excuse me for interrupting, but may I add something quickly? I have an idea that might solve both issues. What if we run a smaller, targeted social media campaign first? We could use the results to prove its effectiveness before we request a larger budget.
(お話中すみません、少しだけ付け加えてもいいですか?両方の問題を解決できるかもしれないアイデアがあります。まず小規模でターゲットを絞ったSNSキャンペーンをやってみるのはどうでしょう?その結果を使って効果を証明してから、より大きな予算を申請するのです。)
結論: まずはこの3つから!初心者が覚えるべき鉄板フレーズ
たくさんの表現があって混乱してしまった…という方もご安心ください。最後に、これさえ覚えておけば様々な場面で応用が利く、超万能な「三種の神器」をご紹介します。
- Excuse me. (すみません)
- 役割: 究極の万能クッション言葉。誰かの注意を引く時、人の前を通る時、会話を始めるきっかけなど、あらゆる場面で使えます。困ったらまず “Excuse me.” と言ってみましょう。
- ポイント: 声のトーンでニュアンスが変わります。質問する時は語尾を上げて「Excuse me?」、注意を引く時は語尾を下げて「Excuse me.」と言うと自然です。
- Do you have a second? / Do you have a moment? (少しお時間ありますか?)
- 役割: 相手の時間と状況を尊重する、英語コミュニケーションの心臓部とも言えるフレーズです。
- ポイント: これを言えるだけで、とても丁寧で思慮深い印象を与えられます。最も重要なのは、質問した後に必ず相手の返事を待つこと。尋ねるやいなや用件を話し始めるのはマナー違反です。
- Sorry to interrupt. / Sorry to bother you. (お話中すみません / お邪魔してすみません)
- 役割: 「お邪魔します」の「申し訳ない」という気持ちを最も自然に伝えられる表現です。
- ポイント: 相手が他の人と話している時は “interrupt”、一人で集中している時は “bother” を使うと、よりネイティブらしく聞こえます。心を込めて、少し申し訳なさそうなトーンで言うのがコツです。
言語の学習は、単語や文法を覚えるだけでなく、その背景にある文化を学ぶことでもあります。「お邪魔します」という一言から、これほど豊かで興味深いコミュニケーションの世界が見えてきたのではないでしょうか。
完璧を目指す必要はありません。間違いを恐れず、まずは今日学んだフレーズの中から一つでも、実際に使ってみてください。その小さな一歩、小さな成功体験が、あなたの英語の世界を大きく、そして確かなものにしてくれるはずです。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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