「Aさんによろしくお伝えください」
「(新任ですが)今後ともよろしくお願いします」
「(会議)よろしくお願いします」
日本語では、ビジネスシーンから日常会話まで、この「よろしく」という一言で、感謝、挨拶、依頼、期待など、本当にさまざまなニュアンスを伝えることができます。こんなに便利な言葉は、なかなかないですよね。
しかし、この便利さゆえに、いざ英語で言おうとすると、「“よろしく”って、英語でなんて言うんだろう?」と手が止まってしまう方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず。実は、日本語の「よろしく」にぴったり当てはまる、一言ですべてをカバーできるような便利な英語表現は存在しないのです。
まずはYouTube動画で基本をサクッと理解したい方は、上のリンクからご覧ください。
この記事では、なぜ英語には「よろしく」がないのか、そして場面ごとにどうやってその気持ちを伝えたらよいかを、英語学習をやり直したい初心者の方にも分かりやすく、例文をたっぷり使って徹底的に解説していきます。
なぜ英語に「よろしく」がないの?
一番の理由は、日本語と英語のコミュニケーションにおける「文化の違い」にあります。専門的な言葉を使わずに言えば、以下のようになります。
- 日本の文化: 相手の気持ちや状況を「察する」ことや、「空気を読む」ことを大切にする傾向があります。「言わなくても分かってくれる」ことが美徳とされる場面も少なくありません。だからこそ、「よろしく」という一言に、その場の文脈に応じてさまざまな意味(感謝、挨拶、依頼など)を持たせることができるのです。
 - 英語圏の文化: 思っていることや伝えたいことを「はっきりと言葉にする」ことが重視されます。「大切なことは、言葉にしないと伝わらない」と考えるのが基本です。
 
日本語の「よろしく」は、本当に多義的です。
「(お土産)皆さんでどうぞ。よろしくお願いします」
「(スピーチの後)ご清聴ありがとうございました。よろしくお願いします」
「(仕事の依頼)この件、よろしくお願いします」
これらをすべて同じ英語で表現することはできません。もし英語でそのまま「よろしく」と伝言を頼むと、相手は「具体的に何を伝えればいいの?」「何をよろしく(お願い)されたいの?」と本気で困惑してしまいます。
英語で「よろしく」の気持ちを伝えるための最大のコツは、まず「自分が今、本当に伝えたいことは何なのか」を明確にすることです。
- 「ありがとう」という感謝の気持ち?
 - 「こんにちは」という挨拶?
 - 「〜しておいてほしい」という依頼?
 - 「〜を楽しみにしている」という期待?
 
この「伝えたい核心(コア)」さえはっきりすれば、英語での表現は決して難しくありません。
【場面1】 感謝の「よろしく」を伝える
誰かにお世話になったお礼や、感謝の気持ちを伝えてほしい時の「よろしく」です。「ありがとう」という気持ちを具体的に言葉にします。
丁寧な表現 (ビジネスや目上の方に)
「〜に感謝している」という気持ちを、はっきりと伝えます。「ありがとう (Thank you)」よりも丁寧で、相手の行為や助けの「価値をしっかり認めています」というニュアンスを伝えたい時、動詞の「appreciate(〜に感謝する、〜を高く評価する)」を使うと非常に効果的です。
Please tell him I truly appreciate his help.
(彼に、その助けに本当に感謝しているとお伝えください)
Please tell Ms. Tanaka I really appreciate her advice.
(田中さんに、彼女のアドバイスに本当に感謝しているとお伝えください)
We truly appreciate your team’s quick response on this matter.
(この件に関する御チームの迅速なご対応に、心より感謝申し上げます)
※これは伝言ではありませんが、appreciate が「よろしく(=感謝しています)」のニュアンスで使われる例です。
カジュアルな表現 (友人や親しい人に)
シンプルに「ありがとう」と伝えてもらう形です。「for me(私のために、私から)」を添えるのがポイントです。
Please tell her thanks for me.
(彼女に、私からありがとうと伝えてください)
If you see Ken, please tell him thanks for me.
(もしケンに会ったら、私からありがとうと伝えておいて)
When you talk to your sister, tell her thanks for the lovely gift.
(お姉さん(妹さん)と話すとき、素敵な贈り物をありがとうと伝えてね)
Please tell your mom thanks for driving me home.
(お母さんに、家まで送ってくれてありがとうって伝えて)
【場面2】 挨拶の「よろしく」を伝える
「Aさんによろしくね」と、純粋に挨拶(元気ですか?など)を伝言するケースです。これは感謝よりも簡単で、定番のフレーズがあります。
丁寧な表現 (ビジネスや目上の方に)
「regards(敬意、よろしくという気持ち)」という単語を使った、丁寧でフォーマルな表現です。これは、相手の健康や成功を願うような、改まった挨拶のニュアンスを含みます。ビジネスメールの結び言葉「Best regards,(敬具)」にも使われる単語ですね。
Please give my best regards to Alex.
(アレックスに、くれぐれもよろしくお伝えください)
Please give my best regards to your family.
(ご家族の皆様にも、どうぞよろしくお伝えください)
※「best」の代わりに「kind」を使って Please give my kind regards to … と言うこともできます。どちらも非常に丁寧です。
Please send my regards to Professor Smith.
(スミス教授によろしくお伝えください)
※「give」の代わりに「send」も使えます。
カジュアルな表現 (友人や親しい人に)
「こんにちはと言う」という、とてもシンプルな表現です。「Say hello to (人) for me」の形で使います。
Say hello to Alex for me.
(アレックスに、私からよろしくね)
Please say hello to your parents for me.
(ご両親によろしくお伝えください)
- 少しの違い:
- Say hello to Alex for me. (私のために、アレックスに挨拶してね)
 - Say hello to Alex from me. (私から、アレックスに挨拶してね)
 - どちらも「よろしく伝えて」という意味で使えますが、「for me」のほうがより一般的に使われる傾向があります。
 
 - 似た表現:
- Tell Alex I said hello.(アレックスに、私がよろしく言ってたって伝えて)
 - こちらも非常にカジュアルでよく使われます。「from me」のニュアンスに近いですね。
 
 
【場面3】 会えなかった時の「よろしく」
「今回はお会いできず残念でしたが、よろしくお伝えください」というニュアンスの場合です。この場合、「残念だった」という気持ちを具体的に伝えることが「よろしく」の代わりになります。
Please tell him I was sorry I missed him.
(彼に、会えなくて残念だったとお伝えください)
※「miss」は「〜に会えなくて寂しい」の他に「〜に(すれ違いなどで)会えなかった」という意味でも使えます。
I was sorry I couldn’t see Ms. Sato. Please tell her I hope to see her next time.
(佐藤さんにお会いできず残念でした。次回お会いできるのを楽しみにしていると、お伝えください)
Please tell her I was sad I couldn’t see her, and I hope she feels better soon.
(彼女に会えなくて悲しかったことと、早く元気になってほしいと伝えてください)
※相手が体調不良などで会えなかった場合。
【場面4】 何かをお願いする時の「よろしく」
ここからが少し応用編です。これは伝言ではなく、「(これから)お願いします」と依頼したり、お世話になったりするタイプの「よろしく」です。これは状況によって使う表現が全く変わってきます。
例1: 「(新任ですが)よろしくお願いします」
新しい職場やチームに入った時の挨拶です。これは「依頼」というより、「これから良い関係を築きたい」という未来への「期待」を表します。
I’m excited to work with you all.
(皆さんと一緒に働けることにワクワクしています)
I look forward to working with you.
(皆さんと一緒に働くことを楽しみにしています)
※注意!: この場面で Please take care of me. と言うのは 間違い です。これは「私のお世話をしてください(=私は一人で何もできないので面倒を見てください)」という意味になり、ビジネスシーンでは非常に不適切です。
例2: 「(うちの子を)よろしくお願いします」
子供を預ける時や、誰かに世話を頼む場面です。
この場合、英語では「(これからお世話になることを前提に)先に感謝を伝える」という表現をよく使います。
Thank you for taking care of my son.
(息子の面倒を見てくれてありがとうございます(=よろしくお願いします))
We really appreciate you looking after our cat.
(私たちの猫の世話をしてくれて、本当に感謝しています(=よろしくお願いします))
Thank you for everything you do.
(いつも色々ありがとうございます(=(引き続き)よろしくお願いします))
※すでにお世話になっていて、これからも続く場合など。
【場面5】 始まる前の「よろしく」
会議やプレゼンテーションが始まる前、あるいはEメールで何かを依頼した結びにも「よろしくお願いします」と使いますよね。これも未来への「期待」や「協力への感謝」を先に伝えることで表現します。
例1: 会議の冒頭で
I’m looking forward to our discussion today.
(今日の議論を楽しみにしています(=よろしくお願いします))
Thank you all for coming today. Let’s get started.
(本日はお集まりいただきありがとうございます。さっそく始めましょう(=よろしくお願いします))
例2: Eメールの結びで
I look forward to your feedback.
((あなたからの)フィードバックを楽しみにしています(=(レビューを)よろしくお願いします))
I look forward to hearing from you.
(お返事お待ちしております(=よろしくお願いします))
Thank you in advance for your help.
(あなたのお力添えに、前もってお礼申し上げます(=よろしくお願いします))
※これは「依頼」のニュアンスが強い表現です。
まとめ
英語で「よろしく」を伝えたい時、もう迷う必要はありません。
大切なのは、「今、自分は何を伝えたいのか?」を自問自答してみることです。
- 感謝を伝えたい? (ありがとう)
- → Please tell him thanks for me.
 - → Please tell her I appreciate her help.
 
 - 挨拶を伝えたい? (こんにちは、元気?)
- → Say hello to him for me.
 - → Please give my best regards to her.
 
 - 何かをお願いしたい? (~してほしい)
- → Thank you in advance. (先にありがとう)
 - → I look forward to your feedback. (楽しみにしている)
 
 - 良い関係を築きたい? (これからよろしく)
- → I look forward to working with you. (一緒に働くのが楽しみ)
 
 
まずは、この「何を伝えたいか」を意識するだけで、あなたの英語はより具体的で、相手にしっかり伝わるものになります。
難しく考えすぎず、まずは一番簡単な「Say hello to … for me.」あたりから、少しずつ使ってみてくださいね。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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