相手を気遣う「大変ですね」の一言。日本語では相槌として、励ましとして、様々な場面で使える本当に便利な言葉ですよね。しかし、この便利な一言を英語で伝えようとすると、「これで合っているのかな?」「なんだか気持ちが伝わっていないかも…」と不安になることはありませんか?
実は、日本語の「大変ですね」をそのまま英語に直訳しようとすると、意図が正しく伝わらなかったり、時には失礼な印象を与えてしまったりすることもあるんです。
この記事では、そんな英語学習者のお悩みを解決します!
まずはサクッと基本を知りたい!という方は、こちらのYouTube動画をご覧ください。動画では、最も重要なポイントをコンパクトにまとめています。
このブログでは、動画の内容をさらに一歩も二歩も深掘りし、豊富な例文と共に「大変ですね」というあなたの優しい気持ちを伝えるための英語表現を徹底的に解説していきます。状況や相手に合わせて、画一的ではない、心のこもった言葉を選べるようになりたい方は、ぜひ最後までお付き合いください。
なぜ日本語の「大変ですね」は英語で伝わりにくいのか?
この問題の根っこには、日本と英語圏の文化的なコミュニケーションスタイルの違いがあります。
日本語の「大変ですね」は、単に「困難な状況ですね」と事実を述べているだけではありません。多くの場合、これは「あなたの話を聞いていますよ」「そのお気持ち、お察しします」という、共感のサインを送るための「相槌」としての役割を強く持っています。この一言があることで、話し手は「自分の気持ちを分かってくれている」と安心して話を続けることができます。これは、言葉の具体的な意味よりも、相手に寄り添う姿勢を示すこと自体が重要視される、日本の「高コンテクスト(文脈依存)文化」を象徴するコミュニケーションです。
一方で英語圏の多くは「低コンテクスト文化」に分類され、言葉で具体的かつ明確に意図を伝えることが期待されます。そのため、共感を示す際にも、もう少し具体的な言葉を選ぶことが「ちゃんと話を聞いている」という証拠だと受け取られやすいのです。毎回同じように “That’s tough.” だけを繰り返していると、「本当にそう思っているのかな?」「ただの口癖かな?」と、心がこもっていない印象を与えてしまう可能性すらあります。
大切なのは、完璧な一つの翻訳を探すことではありません。日本語の「大変ですね」という便利な傘がカバーしていた様々な感情の雨粒(状況)に対応できるよう、英語表現の「引き出し」をたくさん持っておくこと。それが、より誠実で温かいコミュニケーションへの第一歩となるのです。
まずは基本から!「大変」を表す4つの英単語のニュアンス
英語で「大変」という気持ちを表すには、いくつかの基本となる単語があります。それぞれの微妙なニュアンスの違いを知っておくと、表現の幅がぐっと広がります。一つ一つの単語が持つ「性格」を理解していきましょう。
- hard: (肉体的・精神的な) しんどさ、骨の折れる感じ最も一般的に使われる「大変」で、汎用性が高い単語です。肉体的なきつさ、精神的なしんどさの両方に使えます。「骨が折れる」「労力がいる」といった、継続的な努力が必要な状況にぴったりです。
- It’s hard to wake up at 5 a.m. every day. (毎日朝5時に起きるのは大変です。)
- Learning a new language is hard, but rewarding. (新しい言語を学ぶのは大変ですが、やりがいがあります。)
- It was a hard decision to make. (それは大変な決断でした。)
- tough: (精神的な) 困難、逆境、タフさが求められる感じで精神的な強さや忍耐が求められる「大変さ」を表します。逆境に立ち向かうような、感情的に消耗する状況でよく使われます。”hard”よりも、困難の度合いが強く、精神的なプレッシャーが大きいニュアンスがあります。
- He’s going through a tough time right now. (彼は今、大変な時期を過ごしています。)
- The final exam was really tough. (期末試験は本当に大変だった。)
- It’s a tough job, but someone has to do it. (それは大変な仕事ですが、誰かがやらなければなりません。)
- difficult: (技術的・知的な) 難しさ、複雑さ知識やスキル、慎重な判断が必要な「難しさ」を指します。”hard”や”tough”に比べて客観的で、感情的な意味合いは少し薄まります。問題が複雑で、解決策がすぐに見つからないような状況に適しています。
- This math problem is too difficult for me. (この数学の問題は私には難しすぎます。)
- It’s difficult to explain the situation to someone who wasn’t there. (その場にいなかった人に状況を説明するのは難しい。)
- He is a difficult person to negotiate with. (彼は交渉相手として難しい人物です。)
- challenging: やりがいのある大変さ、挑戦「大変」を表す言葉の中で、最もポジティブな響きを持つ単語です。困難ではあるけれど、それを乗り越えることで自分が成長できる、という前向きな文脈で使われます。特にビジネスシーンなどで、意欲を示すのに好まれる表現です。
- My new role is challenging, but I’m learning a lot. (私の新しい役職は大変ですが、多くのことを学んでいます。)
- It was a challenging hike, but the view from the top was worth it. (それは大変なハイキングでしたが、頂上からの眺めは価値がありました。)
- We are facing a challenging market environment. (我々は困難な市場環境に直面しています。)
状況別!ネイティブに伝わる「大変ですね」実践フレーズ集
それでは、具体的な状況に合わせて使えるフレーズを見ていきましょう。相手との関係性(カジュアル vs. フォーマル)や、伝えたい気持ちの温度感を意識して使い分けるのがポイントです。
1. 仕事が忙しい同僚や友人に対して
締め切りや多くのタスクに追われ、心身ともに余裕がなくなっている人にかける言葉です。相手の頑張りを認め、ねぎらう気持ちを伝えましょう。
- カジュアルな表現 (友人や親しい同僚に)
- That sounds tough. (それは大変そうだね。)
- You’ve got a lot on your plate. (やることが山積みなんだね。)
- Sounds like you’re swamped. (すごく忙しそうだね。「沼にはまっている」ようなイメージです。)
- I don’t know how you do it all. (どうやって全部こなしているのか、すごいよ。)
- You must be exhausted. (へとへとに違いないね。)
- フォーマルな表現 (上司や取引先に)
- That sounds like a very demanding schedule. (それは非常に大変なスケジュールですね。)
- You’re certainly managing a heavy workload. (多くの仕事量をこなしていらっしゃいますね。)
- I appreciate you taking the time to speak with me when you’re so busy. (お忙しい中、お時間を割いていただき感謝いたします。)
- It sounds like you have a lot to juggle right now. (現在、多くのことをやりくりされているようですね。)
2. 体調が悪い、病気や怪我をした人に対して
相手の辛さに寄り添い、回復を願う気持ちを伝えます。励ましよりも、まずはゆっくり休んでほしいという気持ちを伝えるのが良いでしょう。
- カジュアルな表現 (友人や家族に)
- I’m so sorry to hear that. I hope you feel better soon. (それはお気の毒に。早く良くなるといいね。)
- That sounds miserable. Let me know if you need anything. (聞くだけで辛そうだね。何か必要なものがあったら言ってね。)
- Take it easy and get some rest. (無理しないで、ゆっくり休んでね。)
- That’s rough. Just focus on getting better. (それはきついね。とにかく良くなることに集中して。)
- フォーマルな表現 (同僚や目上の人に)
- I’m so sorry you’re unwell. Wishing you a speedy recovery. (ご体調が優れないと伺い、残念です。一日も早いご回復をお祈りしております。)
- Please focus on your health. We’ll manage things here. (どうぞご自身の健康を第一に考えてください。こちらのことは対応しますので。)
- Sending you my best wishes for a swift return to health. (速やかにご健康を回復されますよう、心からお祈り申し上げます。)
3. 家族の介護や子育てなど、長期的な負担を抱える人に対して
一過性ではない、継続的な努力や精神的な負担を理解し、サポートする気持ちを伝えます。「分かるよ」と安易に言うのではなく、相手の状況の大きさを認める姿勢が大切です。
- カジュアルな表現
- That must be hard. I’m always here if you need to talk. (それは本当に大変でしょう。話したくなったら、いつでも聞くよ。)
- I can’t imagine how challenging that must be. You’re doing an amazing job. (それがどれほど大変なことか想像もつかないよ。あなたは本当にすごいことをしている。)
- That takes a lot of patience and energy. I really admire you. (それはすごく忍耐とエネルギーがいることだよね。本当に尊敬するよ。)
- フォーマルな表現
- You are handling a very difficult situation with a great deal of strength. (非常に困難な状況に、多大な強さをもって対処されていますね。)
- That must require a tremendous amount of patience and energy. (それは計り知れないほどの忍耐とエネルギーを要することでしょう。)
- Please know you have my full support. (私が全面的にサポートすることをお含みおきください。)
4. これから試験や大事なプレゼンに挑む人に対して
相手を力づけ、成功を祈る気持ちを伝えます。これまでの努力を認め、自信を持たせてあげられるような言葉を選びましょう。
- カジュアルな表現
- You’ve got this! (君ならできる!)
- Break a leg! (頑張って!幸運を祈るよ! – 演劇界由来のユニークな表現です)
- I know you’ll do great. (きっとうまくいくよ。)
- All your hard work is going to pay off. (今までの努力は全部報われるよ。)
- We’re all rooting for you. (みんなで応援しているからね。)
- フォーマルな表現
- I wish you the best of luck. (ご幸運をお祈りしております。)
- I have every confidence in your abilities. (あなたの能力を全面的に信頼しております。)
- All your preparation will surely lead to a successful outcome. (これまでのご準備が、必ずや成功へと繋がるものと確信しております。)
【絶対NG】その「大変ですね」は失礼かも?使ってはいけない英語表現
良かれと思って言った言葉が、相手を不快にさせてしまうことも。ここでは、特に注意したいNG表現とその理由を詳しく解説します。これらを避けることは、良いフレーズを覚えるのと同じくらい重要です。
- You are hard.これは絶対に避けてください。「あなたは厳しい人だ」「気難しい人だ」という、相手の人格を直接非難する言葉になってしまいます。英語の感覚では、「大変なのは状況(It/That)であって、人(You)ではない」と、問題と人を切り離して考えるのが基本です。主語は必ず It や That を使いましょう。(例: That’s hard. / It must be hard.)
- I know how you feel. (あなたの気持ち、分かりますよ)善意から出た言葉でも、相手のユニークで個人的な辛さや痛みを軽んじている、と受け取られることがあります。「あなたの辛さを完全に理解することはできないかもしれないけれど、心から寄り添いたい」という姿勢を示す方が、より誠実さが伝わります。代わりに “I can’t imagine what you’re going through, but I’m here for you.” (どんなお気持ちか想像もつきませんが、あなたの味方です) のような表現が思慮深く、好まれます。
- Look on the bright side. / Everything happens for a reason. (良い面に目を向けて / 全ての出来事には意味がある)これらは「ポジティブの押し付け」と見なされることがある危険な表現です。相手が感じている正当な悲しみや怒り、苦しみを無視し、無理やり前向きな気分にさせようとする態度は、非常に無神経に映ります。相手は解決策や気休めではなく、まず自分の感情を受け止めてほしいと思っていることを忘れないでください。
共感の次の一歩!関係を深めるフォローアップ術
共感の言葉を伝えた後、もう一言添えることで、あなたの気遣いはより深く相手に伝わり、信頼関係を築くきっかけになります。
- 具体的な手伝いを申し出る「何かできることがあったら言ってね (Let me know if I can do anything.)」という言葉も素敵ですが、心身ともに疲れている相手に「助けを求める」というもう一つのタスクを与えてしまうことにもなりかねません。可能であれば、相手が「イエス/ノー」で答えられる具体的な提案をしてみましょう。その方がずっと親切で、行動する意志があることが伝わります。
- I’m making soup tonight, can I drop some off for you? (今夜スープを作るんだけど、少しおすそ分けしてもいい?)
- I’m heading to the store, what can I pick up for you? (これからお店に行くんだけど、何か買ってくるものはある?)
- Would it be helpful if I watched the kids for a couple of hours? (2時間ほどお子さんを見ていたら助かる?)
- 自分を責めている相手を気遣う頑張りすぎている人や、失敗して落ち込んでいる人には、「もっと頑張れ」ではなく、「少し休んで」というメッセージが心に響くことがあります。
- Take it easy. (無理しないでね。)
- Be easy on yourself. / Don’t be so hard on yourself. (自分に優しくしてあげてね。/ そんなに自分を責めないで。)
- It’s not your fault. These things happen. (あなたのせいじゃないよ。そういうこともあるさ。)
まとめ

今回は、日本語の「大変ですね」という気持ちを、様々な状況で、相手に寄り添いながら英語で伝えるための表現をご紹介しました。
大切なのは、完璧な一つの正解を探すのではなく、相手の状況や気持ちを想像し、自分の言葉の「引き出し」から最適なフレーズを選ぶことです。相槌一つで、会話の雰囲気は大きく変わります。
今回学んだフレーズは、あくまでコミュニケーションの道具箱の一つです。この道具を参考に、ぜひ実際の会話で、あなた自身の言葉で、相手への思いやりを伝えてみてください。言葉の背景にある文化やニュアンスを理解することで、あなたの英語コミュニケーションは、より温かく、血の通った、豊かなものになるはずです。

英会話カーディム講師。元外資系エンジニアでMBA保持者。海外留学なしに国内で独学にて英語を習得。ラテン語や印欧語、英語史の知識を持ち、英文法を含めた英語体系に詳しい。英語オタクで出版された英和辞典や英文法書は絶版も含めて殆ど持っている。
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